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ユーレカの日々[01]ZINE・リトルプレスがゆるく熱い

本を作るのは楽しい。本を売るのも楽しい。

前回の後記でちらっと紹介したが、先日、大阪のギャラリー「あしたの箱」で開催された「ZINEとリトルプレス展」に行ってきた(というか出品した)。イラストレーター、コミックエッセイ作家であり、大学の同僚でもあるMONさん< http://monmonpress.blog90.fc2.com/ > が企画した自費出版の展示会だ。

ZINE、リトルプレスというのは、どちらも「自費出版」なのだが、ニュアンスとしてはZINEは自分編集の雑誌(フリーペーパー)、リトルプレスは自費出版の本という印象。ZINE・リトルプレスの専門店、Dandelion < http://www.books-dantalion.com/ >の店長さん曰く「印刷製本を自分でやるのがZINE、印刷はもちろんデザインなどもプロにまかせる場合があるのがリトルプレス」という棲み分けだそう。

自費出版というとコミケなどのマンガ同人誌を思い浮かべるが、ZINE、リトルプレスは、絵、写真、文章、雑誌的なものなどジャンルは様々で、アートっぽ いもの、デザインっぽいもの、雑貨っぽいものなどいろいろ。全体として軽い感じ、手作り感があるのが特徴だ。ぼく自身も昔「MacFan」などで連載して いた四コマ漫画をまとめたものと、写真集を作って参加した。
< http://www.makion.net/makionlog/item_406.html >


様々なZINEやリトルプレスを見ていると、30年くらい前に自分が作っていたものと、とても似ている。高校の頃、マンガを描き始めた。多少描けるように なってくると、人に見せたくなる。そこで最初はノートに鉛筆で描いたものを、友だち間で肉筆回覧する。ところが回覧だと読みたい時に読めない。今ならコ ピーを簡単にとれるが、35年前はそうではなかった。

当時は青焼きコピー、ガリ版に代わり、ゼロックス(トナー式コピー)が徐々に普及しだしていたが、文具店などでお店の人に頼んでコピーしてもらうのが普通 で、1枚30〜50円くらいだっただろうか。ゼロックスはまだ画質も悪く、手軽にコピーを取る、という時代ではなかったのだ。

ましてや自分が描いたモノを本にしようと思ったら、商業雑誌に載せてもらうしかないのだ。読者コーナーに投稿するか、プロになるしかない。それほど、なにかを印刷物として発表、配布するっていうのは特別なことだった。

ところが高校後半になって、モノクロ1枚10円のセルフコピー機が一気に普及しだした。性能も飛躍的にあがり、ハイコントラストで拡大縮小も可能。これが 最初のメディア革命だった。低価格化もさることながら、だれの手も借りずに印刷物が作れるのだ。お店の人に原稿を見られなくて済むのだ(←これかなり大 事)。

このころ、作り始めたのが、B4コピー(当時日本はB版天下で、A3コピーができるコピー機はほとんどなかった)を8つに折って、真ん中を切る、よく遠足 のシオリなんかでやるタイプの冊子づくり。ハガキよりも小さい8ページの冊子が一冊10円でできる。自分で必要な分作って、配っちゃえるのだ。

版型が小さいので、コマ漫画は難しい。そこで絵本や、挿絵付き小説の形態で何冊か作って、あちこちで配っていた。もちろんモノクロ1色。

ZINE、リトルプレスを見ていると、そういう時代を思い出す。どれも手作り感あふれた、ごく個人的な気持ちで作られた本たちだ。しかし、見た目は35年前のものと似ていても、その背景にある動機はずいぶんと違うように思う。

昔、プロが作ったものと、アマチュアが出来ることがはっきりと違った時代には、ぼくらは必死でプロっぽいことをしようとしてきた。技術的、金銭的な制約の 中で、プロっぽく見せるためにデザインを工夫し、インレタやレタリング本をキリバリし、コピー機の拡大縮小機能を駆使して版下を作ってきた。

今はフォントもDTP環境も印刷も安価に手に入る。たとえばMacとPagesがあれば、プロっぽい洒落た印刷物を簡単に作ることができる。CSがあればオフセット印刷もWebから簡単に入稿することができる。

しかし、ZINEではそういったプロっぽさはなく、手書き、手製本といった、手作り感あふれるモノが中心。わら半紙やクラフト紙に多色孔版印刷、版画、イ ンクジェットプリントなどで刷られ、製本も単純に折り込んだものから、ホチキスや紐止め、パンチ穴に鳩目など、クラフトっぽいものが多い。

あくまでも手作りで、作る過程そのものを楽しんでいるモノが多いのが印象的。もちろん、DTPで作られているものもあるが、切った貼ったのアナログ作業での編集も多い。その結果、クオリティはアートっぽいものから、ものすごくゆるいものまで雑多。

もちろん、DTPに対する知識の有無、ということもあるだろうけど、あえて手作り感覚を選んでいる、楽しんでいる、という場合も多い。

たとえば、大阪のレトロ印刷JAM < http://jam-p.com/ > という印刷所では、リソグラフ(学校などで使う、孔版印刷機。プリントゴッコの親分)による、多色印刷を行っている。

データ入稿もできるのだけど、多色印刷の時はスポットカラー印刷の要領でそれぞれの版のファイルを別々に作って、色指定して入稿しなくてはならない。しかもリソグラフはそんな精密な機械ではないので、多色刷りはズレが大きい。

インクも完全には定着せず、手に付く。はっきり言って、4色オフセットの方が10倍は楽。だが、わら半紙やクラフト紙に刷られたその風合いは、オフセットの精密さとは真逆の心地良いゆるさ、かわいさがある。これはハマル。

また、リソグラフはコピー機みたいな機械なのでアナログ入稿も可能。手書きで版下を作って持ち込めば、デジタルの機材も知識もいらず、かわいい多色刷印刷物をすぐに刷ってくれるので、デジタル苦手な人でも気軽に印刷物が作れる。ミシン縫いの製本はとてもキュートだ。

たくさんでないもの。均質でないもの。ちゃんとしていないもの。便利でなく、めんどうなもの。渡すのにも手にするのにも時間がかかるもの。それしかできなかった35年前とは違い、あえて、それを選ぶ人たちが確実に居てるのだ。

電子出版じゃダメなのだ。Webだけじゃダメなのだ。これらの手作りの本を見ていると、なぜ今、出版不況なのか、Adobeの新バージョンが魅力的に見えないのかが、わかるような気がする。

今週の日曜日、6月5日(日)に東京代々木公園と大阪城公園で「ZINEピクニック」というイベントが開かれるそうだ。
< http://zinepicnic.tumblr.com/ >

過去のレポートを見ると、なんとものんびりした、まさにピクニック。コミケなどの、同人誌即売会とは全然違う(笑)健全な雰囲気。ZINEが気になる人はぜひ。

 

日刊デジタルクリエイターズ】 No.3054掲載    2011/06/01

 

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