- 2011-09-14 (Wed) 02:29
- ユーレカの日々
先日、京都へ学生のグループ展を見に行った帰り、ふと立ち寄った書店で面白い、というか、ものすごい本を見つけてしまった。「昭和ちびっこ広告手帳」(青幻舎)である。
上巻
昭和ちびっこ広告手帳 〜東京オリンピックからアポロまで〜
青幻舎
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下巻
昭和ちびっこ広告手帳2 大阪万博からアイドル黄金期まで (ビジュアル文庫)
青幻舎
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この文庫本が発行されたのは2009年(底本は1999年の「ちびっこ広告図案帳」)。タイトル通り、昭和30年〜40年の少年少女雑誌に掲載されていた広告ばかりを集めた本である。フルカラー、各巻300ページで、上巻は1960年代、下巻は1970年代の広告が収録されている。
この本が目についたのは、最近は死語に近い「ちびっこ」という語感と表紙のビジュアル。
60年代編(東京オリンピックからアポロまで)は「シェー」のポーズをするイヤミと、シェーのポーズをする少年の写真だ。以前、テレビの探偵ナイトスクープでもやっていたが、ぼくのような60年代生まれの人の少年期のアルバムには必ず、このイヤミのシェーのポーズの写真が収められているのだ。
下巻の70年代(大阪万博からアイドル黄金期まで)の表紙は「モーレツ」の小川ローザのスカートをめくっているニャロメである。当時、スカートめくりは小学生男子の紳士の嗜みであった。元祖草食系の私はしなかった(できなかった)が。
さてページをめくると、これがもう、めまいがするような内容。アトムのシール付きマーブルチョコ、おそ松くんペナントが当たるおそ松くんチョコレート、科特隊の流星バッジが当たるウルトラマンチョコレート、ウルトラQの怪獣ソフビにサンダーバードのプラモデル。きせかえリカちゃん。フラッシャー付き自転車に短波ラジオ。
当時最先端の「子供たちが欲しかったモノ」の広告がぎっしりと詰まっている。ページの間から欲望のオーラが立ち込めるようだ。これらの昭和製品そのものは、テレビの鑑定団などでしばしば紹介されたり、本にまとめられていたりするので、さほど珍しいというものではない。
しかし、この本では商品そのものではなく、広告という形で紹介しているところがミソ。モノだけだとただのノスタルジーだが、これらのこども心を鷲掴みにせんと、扇情しまくりの当時の広告は、当時の強烈な飢餓感を鮮烈に蘇えらせるのだ。
特に凶悪なのが懸賞だ。今の時代、あまり射幸心をあおりすぎるような景品はダメ、ということになっているらしく景品は市販されているモノが中心だし、オリジナルグッズであってもヤフオクなどでいくらでも手に入るので、それほど魅力的には見えない。しかし、昭和時代の子ども向け景品は暴力的なまでに魅惑的だ。
たとえば、小学生の頃欲しくて欲しくてたまらなかった懸賞品に、「悟空のきんそう棒」というのがある。虫プロアニメ「悟空の大冒険」のグッズで、明治のお菓子で当たるという懸賞。この本を見るまですっかり忘れていたが、これがすごい。
推定長さ1m直径8cmほどのきんそう棒の中には「すごい倍率のカッコイイ望遠鏡」「金貨や指輪が入ってる宝袋」「どこでも方向がわかる精密な羅針盤」「あかるい懐中電灯」などなどの、きっとすばらしく役に立つであろう「12のひみつがギッシリ!」収納されている、当時の小学生の想像をはるかに超えたスーパーアイテムなのだ。
今の人にはあまりピンと来ないかもしれないが、当時、懐中電灯もコンパスも望遠鏡も、子供たちにはあこがれのスーパーメカ、これさえあれば、自分は万能になれるに違いない、iPhone並のスーパーアイテム。
それが一本の棒なんと12個もつまっているのだよ!! しかもそれはどんなに親にねだっても、お金では買えないオリジナル景品なのだ!! 雑誌広告やTVCMでさんざん煽られるのに、クラスのだれもその現物を見たことがない幻のガジェット。市販品ならお店に行けばウィンドウ越しに見ることができるが、これは見ることさえ許されない、本当に特別なモノなのだ。
もし今、iPhone並の、しかも市販されていないガジェットが12個入った景品が存在したら、世の中の大馬鹿共はチョコレートであろうがキャラメルであろうが、10万、100万でも投資して応募するだろう。まぁ、そんな熱さが当時の小学生にはあったのだ。
ところが、まぁ、そういう景品は当選しない。少なくとも当時の小学校で当たった、という話は聞いたことがない。そもそもこの懸賞は明治のお菓子のラベルを100円分集めて応募するのだが、当時のお菓子の相場というのは10円〜30円程度、しかも明治などのメーカー品はたまにしか買ってもらえない高級品であり、日常の駄菓子は10円を割るのが普通。100円分というのはかなりハードルが高く、応募するのも大変なのだ。
そこで、当時の子どもはどうしたかというと、自作するのだ。きんそう棒も科特隊の流星バッジもロボットもスパイアタッシュケースもとにかく自作。紙やら竹ひごやらで、想像力の限りを尽くし、まだ見ぬあこがれの景品を自作するのである。ここにこういうものが収納されているに違いない、ここはこう動くに違いない、と妄想力を自力で形にしていくしかなかったのだ。
おかげで工作やら絵やら妄想やらばかりがどんどん得意になり、後に美術系に進み、クリエイティブな仕事に就くことになったわけだが、そのルーツがこんな子供だましの広告と景品だったのかと思うと、うれしいやら情けないやらである。
景品も暴力的だが、当時の宣伝コピーも相当暴力的。「カッコイイ水中モーターでカッコイイテープレコーダーが当たる!」カッコイイの二乗で、ATOKさんにツッコまれそうだ。「君にもいるかい、兄さんが?!」(ミクロマンの前身、少年サイボーグ)って、いないよ!「赤い血潮のフラッシャー。熱き思いを振り捨てて、男十四の帰り道」(自転車)「男ならエレクトロニクスをやろう」(電子ブロック)......うーん、熱い、熱すぎる。思いが先走って意味不明、これはもう、島本和彦かプロジェクトXの世界だ。
こういう広告と比べると、今の広告は抽象的か説明的、一言で言えばまぁ草食系で、モノが売れず経済が停滞するのもわかる気がする。「カッコイイハイブリッドカーで君も未来へゴー!!」とか「12の秘密メカがギッシリ詰まったスーパーカーが当たる!」とかやったら、プリウスも今の10倍くらい売れるんじゃないだろうか。売れないか。
ちなみに、この本の画像は図書印刷株式会社が当時の雑誌からスキャン、Photoshopを駆使しまくってレタッチしているそうで、ものすごくクオリティが高い。印刷物からの復刻なのに、スキャン画像にありがちなモアレもボケも皆無。きっとオペレーションされた方々もこの本の内容に燃えまくって作業されたに違いない。デジクリ的にはこのあたりも見どころだ。
まぁとにかく、60年代前後生まれのオヤジは、だまされたと思ってこの本をAmazonでポチッとすることをオススメする。一冊で白ご飯10杯、上下巻で白ご飯20杯保証する。若い人達は、オッサン達の意味不明な情熱がどのあたりから来ているのかを知る、貴重な資料となるであろう(ならんか)。広告に携わる人は、これを読んで目からウロコを10枚くらい落とすがよい。
【日刊デジタルクリエイターズ】 No.3113掲載 2011/09/14
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