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ユーレカの日々[03]4対3の風景

テレビのアナログ放送が地上波、BSとも終了し、デジタル放送に移行した。我が家には二台のテレビがあるが、小さい寝室用は地デジ対応の液晶に買い替え、居間用はブラウン管テレビに地デジ対応のレコーダーをつないでしのぐことにした。ブラウン管といってもハイビジョン画質対応製品で、レコーダーさえつなげば地デジもBSデジタルもBlu-rayも、液晶テレビと同等に高解像度で見ることができる。というわけで、そのまま続投していただくことになった。

ブラウン管は電気代が高く付くというのが気になるが、うちはテレビをそれほど見ないので、買い換える方がお財布にも環境にもやさしくないだろう、という判断だ。

アナログテレビは50年以上、同じフォーマットが使われてきた。途中、カラー化したり、ステレオ化したりと拡張されてきたものの、基本はずーっと同じフォーマットで古いテレビでも見ることができた。

今回はじめて、下位互換のないフォーマット変更ということになる。デジタル化することで、画質がよくなったり、録画ディスクのコピーができなくなったり、Macで見られなくなったり、時報が信用できなくなったりと、ええやら悪いやら(悪い方が多い気がするが)であるが、一番大きな変化は画面のアスペクトが4対3から16対9になったことだ。

テレビがワイド化したのはいつからだろう? VHS、レーザーディスクまではすべて4:3、その後DVDが規格化されてから徐々に受像機のワイド化が普及してきた。今うちで使っているテレビを買ったのは2001年。この時点で製品としてのテレビはすっかり16:9のワイド画面のみになっていた。

ワイドテレビはDVDを見るときはいいのだが、放送は4:3だから左右に黒い帯が入る。無理矢理ワイドに変形拡大する機能がついているが、不自然すぎて気持ち悪いので、ずっと左右が黒帯状態で使ってきた。

それが地デジになって、ようやくすべてのコンテンツが16:9に統一され、すっきりした。パソコンもこの4〜5年でワイド画面が主流になった。4:3は完全に前時代のものになったわけだ。

見慣れた4:3という比率がいつ決まったのか調べてみたら、エジソンが映画に採用したフォーマットまで遡るそうだ。その後、映画のスタンダードサイズとして規格化されたらしい。テレビはそれに習ったわけだが、映画はその後、テレビとの差別化のためにビスタサイズ(ほぼ16:9)へ移行する。

デジタルテレビ放送の16:9はビスタサイズにあわせたわけだが、現在のハリウッド映画の主流は、さらにワイドなシネマスコープサイズ(2.35:1)。そんなわけで洋画のDVDやBlu-rayにはまたまた上下に黒帯が入ってしまう。20年後くらいには、テレビも2.35:1になってまたまた買換えになるのかもしれない。

アスペクトの変化で変わるのは、コンテンツ以上に「ディスプレイのある風景」だ。駅の案内などでまだ4:3を見かけることがあるが、これも今後16:9へとリプレイスされていくだろう。

これだけ日常にディスプレイがあふれているのだから、その形状が変わることは、風景そのものが変わるということだ。古い映画やドラマでコード付きの電話機を見ると古さを感じるのと同様、4:3のディスプレイのある風景がノスタルジーになりつつある。そんなことを考えていて、古い二本のSF映画のことを思い出した。

ひとつめは「2001年宇宙の旅」。もう40年も前の映画だが、この映画の中に登場するディスプレイのアスペクトはすべて、1対1の正方形だ。

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映画が公開された1968年はようやくカラーテレビが普及しはじめた時代だから、当然これらの平面ディスプレイはすべて作り物で、正方形のスクリーンに背後から映写機で投影することで表現している。コンピュータディスプレイ、テレビ電話、スポーツ中継、タブレットPCで読む新聞など、すべてが正方形の平面ディスプレイで統一されている(全て正方形と思っていたら、冷凍睡眠の生命維持装置は横長という指摘を読者の方からいただいた。よく覚えているなぁ。また改めてよく見てみたら、食事時に出てくるタブレット型のテレビ新聞は縦長でした)。

この映画が描いている未来の風景が今も古く感じられないのは、こういうディテールの徹底した作り込みにあるのだろう。ディスプレイに囲まれた風景、という描写も時代を考えればすごいが、もし、この映画の中のディスプレイが3:4だったら、とても古くさく感じられるだろう。

もうひとつ、アスペクトにこだわった映画がある。キャメロン監督の「エイリアン2」だ。

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こちらに登場するディスプレイはすべて16:9。海兵隊の装備、医療機器、壁面プロジェクタすべてが16:9だ。公開された1986年はMacはまだモノクロの時代。パソコンもテレビもすべてアスペクトは4:3だ。

映画のセットでは、ディスプレイの上にベゼル(フレーム)を画面の上からかぶせて、16:9のディスプレイに見せている。エイリアン2は前作から数10年たっているという設定であるため、「未来のそのまた未来」を表現するための工夫なのだが、はじめて見た時、その「今の延長上にある未来感」の演出に感心したし、おかげで今この映画を見ても、やはり古さは感じられない。

そういえば、ここ数年で急速に増えたのが縦型のディスプレイだ。スマートフォン時代になって、携帯のディスプレイは急激に表現力と重要性が増した。駅の広告でも、柱にあわせた縦型ディスプレイというのが多くなってきた。いよいよ「紙」とのリプレイスが進み始めた印象だ。

しかし、まだタテ構図の映像というのはあまり見かけない。人間の目は左右に配置されているので、当然、上下よりも左右の方が視野角が広い。そういう意味では縦型よりも横型の方がずっと自然だが、本や手帳、ポスターなど、紙は縦位置で使う場合の方が多い。

昔、ビデオゲームがアーケード中心だった時代は、ゼビウスのように縦型のものがけっこう多かった。印刷物と映像の境目がなくなって、縦型ディスプレイにあわせた映像表現が増えてくると面白いと思う。

そんなわけで、4:3の画面はもう前時代の風景になった。デジタルテレビへの移行の恩恵は正直あまり感じられないが、時代の風景は確実に変わっていく。

【日刊デジタルクリエイターズ】 No.3093掲載    2011/07/27

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